弾くようにレバーを上げて、シャワーを止める。ボタボタと落ちる水滴もそのままに、濡れた髪を顔にへばりつかせ、床を凝視した。
―――― やっぱり気になる
補習を受けていない美鶴は、夏休みになってからは学校へ行く機会がない。先日の夏期模試の時に一度行ったが、やはり見ることができなかった。
夏休み前の校内模試。その順位表。
たしか、休み明けまでは貼り出してあるはずだ。誰もいない時を見計らってこっそり見ようと試みた。
だが無理だった。
美鶴の周りには、常にウザイ生徒の視線が集っている。皆、美鶴の揚げ足を取ろうと終止監視している。教室でまったくの一人になるというのは、無理だ。
ツバサという厄介な存在もある。正直、邪魔な存在だ。
だが、そう邪険に突き放すこともできない理由が、生まれてしまった。それは―――
滴る水のそれぞれから、微かな香りが漂う。
爽やかだが、微かに甘い。
「くっ」
強く瞳を閉じる。
そんなコトよりも、今は順位だっ
――― いや、気にするな。
いくらそう言い聞かせても、どうしても気になる。
どれほど順位を落したのか。一位になったのは誰なのか。瑠駆真は何位だったのか――――
自分にこれほどの屈辱を味合わせた張本人の順位も、やはり気になる。
「あーっ!」
思わず喚き、バスルームの扉を勢い良く開ける。バスタオルを頭に投げつけ、ゴシゴシと擦った。
擦り過ぎると髪が痛む。
霞流の屋敷で世話になった美容師にそう言われた。だが、痛もうが切れようが、知ったこっちゃない。
霞流さん―――――
手を止めた。
ひょっとしたら会えるかもしれない
そう思って、夏休みに入ってから一度だけ、駅舎へ行った。だが慎二はおろか、木崎にも会えなかった。
駅舎は開いていたので、木崎が開錠に来たことは間違いない。
夕方まで待てば、木崎さんには会える。
そう思ったが、待って木崎に会って、果たして何をするつもりなのか?
自問して、結局すぐに立ち去ってしまった。
―――― 何やってんだろ?
自分でも、自分の行動がわからない。それも苛立ちを募らせる。
「イライラするっ!」
叫んだところで、問題が解決するワケはない。
開け放した窓から、生暖かい風。
Tシャツを乱暴に被り、ジャージを穿いてベランダへ出た。
午後八時を過ぎ、ようやく暮れた夏の夜の闇。住宅街の灯りが見える。
この時間なら、皆でリビングにでも集まって、テレビでも楽しんでいるのだろうか? いや、塾にでも行っているのか?
どちらにしろ、この時間に学校をウロついている生徒など、いないだろう。
唐渓のお嬢様・お坊ちゃまが学校で夜遊びなど、するはずもない。
まぁ、中には覚せい剤に手を出す者もいるのだ。親に隠れて夜の街を徘徊する生徒も、いるかもしれない。
ふんっと嫌らしく笑う。
だがすぐ真顔に戻り、軽く唇を噛んだ。
確かめなければ、気が済みそうにない。
そう決意すると、手早くガラス戸に施錠をし、鍵を持って部屋を出た。
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